interview & text : 松山晋也
カブサッキ、再訪。2011
2002年にフアナ・モリーナと共に初来日して以来、今回が何度目になるのだろうか。いわゆる〈アルゼンチン音響派〉の旗頭として日本ではすっかりお馴染みになったギタリスト、フェルナンド・カブサッキ。4月半ばから2週間強、東名阪のたくさんの会場で日本人音楽家たちをゲストに招いてライヴ・ツアーが行われた。『The Flower + The Radio』以来4年ぶり(スタジオ盤としては通算7枚目)となるニュー・アルバム『Luck』をひっさげて。「あれだけの大災害直後だし、家族や友人からはもちろん止められた。でも、こういう大変な時期だからこそ、日本の人々が音楽を必要としているのではないか、自分の音楽を届けるべきだと思った」と語る優しい笑顔からは、日本に対する率直な愛情が伝わってくる。
新作は、短い楽曲が全28曲で75分。各々が固有のイメージを放ち、たくさんの短編映画を連続して観ているような気分になる。そういうサントラ的感触だけでなく、ミニマルなフレーズを元に組み立てられてゆく構造とか全体的な浮遊感や夢想性など、相変わらずのカブサッキ節が全開だ。
「確かに、各々に風景がある感じだけど、それはあくまでもサウンドの中から出てくる風景なんだ。自分で一つの音を見つけ、そこから組み立ててゆくサウンドがいつしか風景になり、そこに連れて行ってもらう…そんな気分だった。リスナーも、いろんな場所や時間などを思い浮かべつつ、楽しんで聴けるんじゃないかな」
いつになく、多くのゲストが参加している点も見逃せない。フェルナンド・サマレアやアレハンドロ・フラノフ、サンティアゴ・バスケスといったお馴染みの顔ぶれだけでなく、日本ではまだ知られていない者も少なくない。「大半が現在の僕の音楽的ファミリーといっていい連中であり、ブエノスで最も優秀な音楽家たち」だという。たとえば、キース・リチャーズのブーツをデザインするなど、以前ヨーロッパで靴の有名デザイナーとして活躍し、現在はブエノスでロック・シンガーになっているマキシ・トゥルッソとか、〈アルゼンチンのプレスリー〉の娘にして、最近はジェシー・ハリスのプロデュースでソロ・アルバムも作ったロサリオ・オルテガとか。
「コラボレイターには一切注文は出さなかった。僕が録音したベイシックなトラックを聴かせつつ、即興演奏してもらったんだ」
そうした現場での自由な音楽的会話と交歓こそが、細切れながらも全体で優雅なうねりを作り出しているのだろう。ジャケットも含め、とにかくファンタジックな作品である。
ちなみにカブサッキ、ここ数年はチャーリー・ガルシアの7年ぶりの新作『Kill Gil』(2010)や、師匠ロバート・フリップの新プロジェクト〈オーケストラ・オブ・クラフティ・ギタリスツ〉のライヴに参加する傍ら、ナショナル・フィルム・チェンバー・オーケストラ他自身の複数のプロジェクトでも同時並行的に活動するなど、相変わらず多忙を極めていたという。願わくば、再び日本のミュージシャンともコラボ作を作ってもらいたいもの。
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